突然ですが、皆さんは「結婚式」と聞くとどんな光景を思い浮かべますか?
多くの方が、チャペルで執り行われるキリスト教式の結婚式を想像するのではないでしょうか。
聖壇の前で新婦を待つ新郎、お父さんとともにヴァージンロードを歩く新婦、神父・牧師さんの前で二人が永遠の愛を誓う場面等々……。
普段キリスト教とは縁遠い生活を送っている方にとって、「ああ、これは宗教的なイベントなんだ」と特に実感するシーンの一つが、賛美歌を歌う場面なのではないでしょうか。
特に、結婚式においては賛美歌の中でも「312番」と呼ばれている「いつくしみ深き」を歌う場合が多いようです。
今回は、結婚式における賛美歌の定番として歌われている「いつくしみ深き」についてご紹介していきたいと思います。
目次
そもそも賛美歌とは?
キリスト教のお祈りに欠かせない音楽
文字通り神を「賛美」する歌を意味します。キリスト教の中でもプロテスタントの礼拝等に際して歌われるものです。
似たような言葉として「聖歌」がありますが、こちらは「賛美歌」よりも広い意味で用いられる言葉で、カトリックや正教会における礼拝時の歌も含みます。
賛美歌の曲名は歌詞の最初の行と同じです。つまり、「いつくしみ深き~」で始まる曲だから曲名も「いつしみ深き」である、というわけなのです。
また、賛美歌に対して割り振られている番号は、賛美歌集に収録されている順番に基づいています。「いつくしみ深き」が「312番」と呼ばれているのは、日本基督教団出版局が1954年に出版した『讃美歌集』の312番目に載っていることがその理由です。
同じ賛美歌であっても、他の賛美歌集に載っている場合、当然番号は異なります。
「いつくしみ深き」のあらまし
誕生から約150年。日本人には意外と馴染み深い?
「いつくしみ深き」は約150年前、1860年代後半から1870年代前半の間に誕生しました。
元々英語で作詞されたもので、原題は「What a Friend We Have in Jesus」というものです。
作詞はジョセフ・スクライヴェン(1819-1886)というアイルランド人、作曲はアメリカ人のチャールズ・コンヴァース(1832-1918)。
このコンヴァースが作曲したメロディーに川路柳虹という人が歌詞を付けた歌が「星の世界」です。
小学校等の音楽の授業で聞き覚えがある、という人は多いのではないでしょうか。
出典:讃美歌312番「いつくしみ深き」 Youtube
出典:星の世界 Youtube
メロディーが分かっていれば、式次第に書かれている歌詞の通りに歌えばまず間違いないわけです。
普段賛美歌を歌わない参列者にとっても比較的馴染み深いであろうメロディーのこの賛美歌が選曲されることが多いのは、少しでも多くの人に歌ってほしい、という思いが背景にあるからなのかもしれませんね。
歌詞について
結婚式を想定した賛美歌ではない!?
では、歌詞についてはどうでしょうか。
前述の通り、この賛美歌は元々英語で作詞されており、結婚式等で歌われる場合は日本語に訳された歌詞で歌われています。
外国語の歌詞を日本語に訳すのは中々大変なことで、訳した歌詞でもきちんと元のメロディーで歌えるように文字数を整える必要があります。
そのため、どうしても内容を省略してしまわなければならないこともしばしば発生します。
そのため、ここではメロディーのことは考えず、意味に焦点を当てて『いつくしみ深き』の元である「What a Friend We Have in Jesus」の歌詞を日本語に訳してみたいと思います。結婚式で歌われるのは主に1番ですので、ここでは1番のみの和訳とします。
(英語)
What a friend we have in Jesus,
all our sins and griefs to bear!
What a privilege to carry
everything to God in prayer!
O what peace we often forfeit,
O what needless pain we bear,
all because we do not carry
everything to God in prayer!
(日本語・拙訳)
なんという(素晴らしい)イエスを私たちは友として持っているのだろうか、
私たちの罪と嘆きを負ってくださるとは!
なんという(素晴らしい)恩恵なのだろうか、
祈りによって神に全てを捧げることができるとは!
私たちはしばしば平安を失い、
私たちは不必要な苦しみを受ける。
全て(※上2行を受けている)は私たちが
祈りによって神に全てを捧げていないからなのだ。
いかがでしょうか。
「結婚式でよく歌われるということは、歌詞も結婚に関係しているのでは?」という予想に反して、それほど結婚式には関係無いかも……という印象を受ける歌詞です。
それどころか、「罪」「嘆き」「苦しみ」といった、お祝いの場にはあまり相応しいとは言い難い言葉が使われています。
実は、省略した2, 3番も含めて、この歌詞全体で神への祈りの大切さが説かれているのです。
そのため、『いつくしみ深き』が歌われる場面は結婚式に限らず、葬式などでも歌われています。
作詞者の思い
苦難の連続、そしてその先に見えた「祈り」の大切さ
以下、引用した文面を記述しています。
1番からだけでも少々暗い雰囲気の漂う「What a Friend We Have in Jesus」ですが、作詞者スクライヴェンはどういう経緯でこの歌詞を書いたのでしょうか。
実はこのスクライヴェンという人、67年の生涯において二人の婚約者がいましたが、二人とも彼と結婚することなく亡くなっているのです。一人目は結婚式の前日に溺死し、二人目は結核で病死しています。
愛する人との離別を二度も経験した彼は、それでも絶望することなく教師として、また奉仕活動家として人々のために尽くし、その人生を終えました。「いつくしみ深き」は1番、2番、3番…と年を空けて作詞されており、そこにはその時その時に彼が遭遇した苦難、そしてそれを神への祈りによって克服し、前へ進んでいった様子が反映されているのです。
まとめ
「いつくしみ深き」、通称「312番」は必ずしも結婚式を想定した賛美歌ではありませんが、作詞者であるスクライヴェンが歌詞に込めた思いを知れば、見方は少し変わってくるのではないでしょうか。
キリスト教式の結婚式の定番のフレーズと言えば、誓いの場面での「健やかなるときも病めるときも~」という、神父・牧師さんから新郎新婦への問いかけの言葉です。
これから始まる結婚生活、決して幸せなことばかりではなく、苦しいとき、辛いときが訪れることもあるでしょう。祈りはそうした逆境を乗り越える強さを与えてくれる――スクライヴェンはそう教えてくれているのではないでしょうか。
せっかくの結婚式、今回紹介した「いつくしみ深き」のように、馴染み深いメロディーの賛美歌であれば積極的に歌ってみることをお勧めします。
披露宴で拍手を送るのと同じ感覚で、二人への祝福の気持ちを表したり、明るい未来を祈るために歌を贈るのも素敵なことではないでしょうか。
PROFILE
- 古着屋「BUYER'S GARMENT」を運営する元メンズアパレルデザイナー。
セレクトショップのECサイト運用担当後、WEBマーケティング業界に従事し、事業部長などのキャリアを経験。
起業後は「サーフ」「アウトドア」「スポーツ」「ストリート」などのアクティブなメンズファッションやライフスタイル情報を発信するIDEALVINCI専属ブロガーとしても活躍。「メンズ古着」「リユースファッション」などの情報も発信。
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