
都市で生き抜くための“装備”として、機能性と無骨な美しさを兼ね備えたファッションスタイル「ミリタリーテック」が注目を集めています。
ミリタリーファッションが持つ重厚な存在感と、テックウェアの先進的な素材や構造が融合することで、実用性とスタイルを両立した“新しい日常着”が誕生しました。
防水・耐久・収納といったハイスペックを活かしながら、ストリートやアウトドア、サバイバル的要素までを取り入れるこのスタイルは、今や感度の高いファッション層だけでなく、日常のリアルクローズとしても支持を広げています。
この記事では、そんな「ミリタリーテック」の定義や魅力、代表的アイテム、着こなしのポイント、人気ブランド、そして今後の可能性についてご紹介します。
目次
ミリタリーテックとは何か?

ミリタリーテックの定義とコンセプト
ミリタリーテックとは、ミリタリーファッションの持つ無骨さと、テックウェアの機能美を融合させたスタイルです。
このスタイルは、軍服由来の実用的なデザインやタフな素材感と、ハイテク素材や高機能ギミックを備えたテックウェアの要素を掛け合わせることで生まれます。
視覚的にはタクティカルベストやカーゴパンツ、コンバットブーツといった定番ミリタリーアイテムがベースとなりつつ、そこに止水ジップ、防水素材、シームレス加工などのテクノロジー要素がプラスされるのが特徴です。
無駄のない装備感と都市生活にマッチする洗練さを両立させた、新たなハイブリッドファッションとして注目されています。
トレンドとしての背景:ゴープコアやアーバンアウトドアの影響
ミリタリーテックの潮流は、ゴープコアやアーバンアウトドアといった2020年代の新しいファッショントレンドの影響を強く受けています。
「ゴープコア(Gorpcore)」とは、登山やアウトドア用の高機能ウェアを日常的なファッションとして取り入れるスタイルであり、「アーバンアウトドア」はその延長線上にある、都会的なシーンに最適化されたアウトドアスタイルです。
これらの流れの中で、実用性と機能性に加えて、無骨で戦術的なルックスを求める層が増えたことで、ミリタリーテックが新たなカテゴリとして台頭しました。
災害やパンデミックといった不安定な社会状況も背景にあり、「生き抜くためのファッション」が支持されているのです。
スタイルの核となるキーワード
ミリタリーテックを語るうえで欠かせないキーワードがいくつか存在します。
まず「タクティカル」は、ミリタリーテックの基盤にある言葉で、戦術的=機能的という意味合いを持ちます。
タクティカルベストやモールシステム(MOLLE)付きバッグなどはその代表例です。次に「テック素材」。
これはゴアテックスやeVent、ソフトシェル素材など、防水性・透湿性・耐久性を備えた機能性ファブリックを指します。
そして「オーバースペック」は、あえて日常には必要ないほど高性能な装備を身につけるという、ファッションとしての遊び心を表す言葉。
最後に「都市×戦術」は、ストリートとミリタリーの融合という文脈を象徴しており、都会的な洗練さとサバイバル的な無骨さの共存を意味します。
これらのキーワードが交錯することで、ミリタリーテックはただの機能服ではなく、現代的で戦略的なスタイルとして成立しているのです。
ミリタリーテックが現代に求められる理由
不確実性が増す現代において、「実用性のある服」への注目度が高まっています。
ミリタリーテックはその最前線にあるスタイルと言えます。
天候の変化に対応できる、長時間の移動や作業に耐えうる、災害時にも頼れるといった機能面はもちろん、「着ているだけでサバイブできそうな安心感」や「他人と被らない尖ったデザイン性」も大きな魅力です。
また、テックウェア単体だと未来感が強すぎたり、ミリタリーファッションだけではクラシックに寄りすぎることもありますが、両者を組み合わせることで今の気分に合った絶妙なバランスが生まれます。
その結果、感度の高いファッション層からも、機能性重視のリアルクローズ層からも支持されるスタイルとして成立しているのです。
ミリタリーファッションとテックウェアの融合点

共通点:耐久性と機能性を重視する設計思想
ミリタリーファッションとテックウェアには、いずれも「過酷な環境で使える衣服」という明確な共通点があります。
ミリタリーウェアはもともと軍用衣料として開発された背景があり、戦場や極地でも耐えうる耐久性、防風性、防水性、機動性といった実用性が求められます。
一方、テックウェアも登山やハイキング、都市での長時間移動を想定して開発されており、撥水・透湿・ストレッチなどの高機能素材を駆使し、天候や動きに対応できるスペックが組み込まれています。
つまり、どちらのスタイルも「ファッションである前に、ギアである」ことを基盤としており、服に求める機能性の水準が非常に高い点で一致しているのです。
相違点:クラシック寄りのミリタリー、未来志向のテック
共通点がある一方で、ミリタリーファッションとテックウェアは「スタイルの志向性」という点で明確に異なります。
ミリタリーファッションは、1940〜70年代のアメリカ軍やフランス軍、ドイツ軍などのヴィンテージウェアをベースとしたクラシックな佇まいが魅力です。
オリーブやカーキ、ベージュといったナチュラルなアースカラーや、重量感のあるコットン生地が特徴で、無骨で時代を感じさせるデザインが根強い人気を持っています。
一方、テックウェアは、近未来的でシャープなシルエットや、モノトーンを基調としたミニマルデザインが特徴です。
素材はナイロンやポリエステルなどの軽量ハイテク素材が中心で、止水ジッパーや隠しポケットといったギミックが多用される傾向にあります。
いわば「過去の実績」と「未来の可能性」がそれぞれの軸となっており、そこに大きなスタイル上の対比が存在するのです。
融合の魅力:ヴィンテージ感とハイスペック素材のミックス
ミリタリーとテック、それぞれのスタイルが持つ魅力を掛け合わせることで、「ヴィンテージ感」と「ハイスペック素材」が絶妙に共存する新しいファッションが生まれます。
たとえば、M-65ジャケットのような伝統的なミリタリーアイテムに、止水ジップや防水透湿素材を組み合わせたアイテムは、クラシックな見た目を保ちながら現代の都市生活に適応した利便性を発揮します。
また、カーゴパンツに伸縮性のあるソフトシェル素材を用いることで、タクティカルな印象を損なうことなく快適な着用感が得られます。
このような“ハイブリッド設計”により、ミリタリーテックはただの懐古趣味でもなく、単なる機能服でもない、「今」のスタイルとして成立しています。
過去と未来を横断する感覚が、着る者に新たな魅力と選択肢を提供しているのです。
ミリタリーテックの代表的アイテム

タクティカルベスト:機能性と拡張性を備えたレイヤードの主役
ミリタリーテックを象徴するアイテムのひとつが、タクティカルベストです。
もともと軍用や法執行機関で使用されるこのベストは、多数のポケットやモールシステム(MOLLE)によって、収納力とモジュール性を備えているのが特徴です。
ファッションとしての活用においても、スマートフォンやサングラス、小型ガジェットなどをスタイリッシュに持ち運べる利便性が評価されています。
さらに、レイヤードのアクセントとしても優秀で、Tシャツやパーカーの上に羽織るだけでスタイルに立体感が生まれます。
ブラックやカーキ、コヨーテといったカラー展開が多く、コーディネートに“戦術的な存在感”を与える万能アイテムとして人気です。
テック素材のカーゴパンツ:機動力と快適性を両立したボトムス
カーゴパンツはミリタリーファッションの定番ですが、ミリタリーテックではそこにテック素材を融合させた進化版が主流となります。
撥水・防風・ストレッチといった機能性を備えたナイロンやソフトシェル素材が使われており、見た目は無骨ながらも着心地は軽快。
テーパードシルエットやアンクルカットなどの現代的なアレンジが加えられることも多く、都市生活にも馴染む設計になっています。
また、サイドポケットに止水ジップを採用したモデルや、コンパクトに折りたためるパッカブル仕様なども存在し、“使えるボトムス”としての評価が高まっています。
アウトドアや災害対策としても有用なため、機能とファッションの両立を求める人に支持されています。
ミリタリーテイストのハードシェルジャケット:都市型サバイバルウェアの完成形
ハードシェルジャケットも、ミリタリーテックの中核をなすアイテムのひとつです。
ゴアテックス(GORE-TEX)やeVentといった防水透湿性に優れた高機能素材を採用することで、過酷な気象環境にも耐えうる実用性を確保。
加えて、ミリタリー由来のフラップポケットやドローストリング、ベルクロなどのディテールを踏襲し、視覚的にも“戦術的”な雰囲気を演出します。
都市生活を前提に設計されたモデルでは、すっきりとしたシルエットやマットな質感、落ち着いたトーンカラーが多く、アウターとしての汎用性も高いのが魅力です。
ストリート、アウトドア、ミリタリーを横断する万能アウターとして、多くのブランドが注力しているジャンルです。
コンバットブーツ × テックソール:無骨さと快適性の融合モデル
足元の完成度を高める上で欠かせないのが、ミリタリーデザインを取り入れたコンバットブーツです。
従来の軍用ブーツは重量感や硬さがネックでしたが、ミリタリーテックでは軽量でクッション性に優れたソールユニットが採用されており、機能性と快適性を両立した進化型となっています。
ビブラムソールやオーソライトインソールを搭載したモデルは、長時間の歩行や悪路でもパフォーマンスを発揮します。
デザイン面では、無骨なアッパーと高機能ソールのミックスによって、ストリートファッションとの相性も抜群。
スラックスやテックパンツと合わせて“都市型タクティカルスタイル”を完成させる、現代のファッションに不可欠なフットウェアとなっています。
ミリタリーテックを着こなすポイント

機能性を前面に出しすぎない“引き算”の美学
ミリタリーテックは高機能なディテールや存在感のあるデザインが魅力ですが、すべてを全面に出すと“やりすぎ感”が出てしまうこともあります。
そこで重要なのが、“引き算”の美学です。例えば全体をブラックやグレー、カーキなどのワントーンやモノトーンで統一することで、情報量を抑えつつ洗練された印象にまとめることができます。
色数を絞ることで、ディテールの機能性が自然と際立ち、スタイル全体に落ち着きと説得力が生まれます。
また、ロゴやブランド主張の少ないアイテムを選ぶことも効果的です。
あくまで“機能としての装備”を装うことで、テクニカルでありながらも日常に馴染むバランスの取れたスタイリングが完成します。
トップス or ボトムスのどちらかでテック要素を取り入れる
全身をミリタリーテックアイテムで固めてしまうと、どうしてもハードな印象になりすぎる傾向があります。
そこで意識したいのが「引き算+バランス感覚」。
具体的には、トップスまたはボトムスのいずれか一方にテック要素を集中させ、もう一方はシンプルで控えめなアイテムを合わせるというスタイリングです。
たとえば、防水シェルジャケットやタクティカルベストを着る場合は、ボトムスをワイドチノやデニムなど落ち着いた素材にすることでバランスが整います。
逆に、テック素材のカーゴパンツや機能性ブーツを主役に据える場合は、トップスを無地のカットソーやシンプルなシャツにすると自然な印象にまとまります。
素材ミックスを意識したスタイリング
ミリタリーテックのスタイリングで差をつける最大のポイントは、「異素材ミックス」にあります。
現代のテックアイテムはナイロン、ポリエステル、ソフトシェルなどの合成繊維が主流ですが、これを天然素材のコットンやウールと組み合わせることで、質感のコントラストが生まれ、視覚的にも立体感が増します。
たとえば、ナイロン製のカーゴパンツに対して、ヘビーオンスのコットンスウェットやウールニットを合わせることで、“都会的でありながら温もりのあるスタイル”を演出できます。
素材感のギャップは、機能性だけでなくファッション性の高さも際立たせてくれる要素。
あえての“ちぐはぐ感”を取り入れることで、より洗練されたミリタリーテックスタイルを実現できます。
人気ブランド紹介

ACRONYM(アクロニウム)
ACRONYM(アクロニウム)は、ドイツ・ベルリンを拠点に活動するデザイナーErrolson Hugh(エロルソン・ヒュー)によって設立されたテックウェアブランドです。
その最大の特徴は、“ハードコアな機能性”と“ミニマルでアバンギャルドなデザイン”の両立にあります。
防水性・透湿性・ストレッチ性といった高機能素材を駆使しつつ、ジップポケットやマグネット開閉などの独自構造を積極的に導入する姿勢は、まさにファッション×ギアの最前線。
ミリタリーを思わせるブラックやオリーブのカラーパレット、タクティカルジャケットを彷彿とさせるシルエットからも、ミリタリーテックとの高い親和性が感じられます。
Nike ACGとのコラボや、サイバーパンク的世界観も相まって、ストリートからも熱い支持を受けているブランドです。
Guerrilla-Group(ゲリラグループ)
Guerrilla-Group(ゲリラグループ)は、台湾発のオルタナティブテックウェアブランドで、ミリタリーや近未来の戦術装備に強くインスパイアされたアイテムを展開しています。
「戦術的でありながら哲学的」というユニークな美学を持ち、機能性と思想性の両面からスタイルを構築する姿勢が特徴です。
止水ジップやシームテープ処理、パラシュート仕様のカットなど、リアルなミリタリーウェアのディテールを現代的なストリートスタイルに落とし込んでいます。
その世界観はファッションという枠を超え、コンセプチュアルアートに近い領域にまで昇華されており、都市型の戦術装備=ミリタリーテックを象徴するブランドのひとつとして評価されています。
and wander(アンドワンダー)
and wander(アンドワンダー)は、日本のアウトドアブランドで、パリコレブランド出身のデザイナーが立ち上げたことでも知られています。
本格的な登山装備に準拠した高機能素材とディテールを用いながらも、都市生活にもマッチする洗練されたデザインを両立しているのが最大の魅力。
反射材の使用や防水加工、パッカブル仕様など、実用性を重視した設計が特徴です。
ミリタリーテックとの関連性は、特にカラーリングや素材選びに表れており、オリーブやグレー、チャコールといった“戦術色”をスタイリッシュに落とし込んでいます。
機能美と自然との調和を重視するその姿勢は、アーバンミリタリー系のスタイルに新たな解釈を加えています。
CHECK
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and wanderデザイナーの経歴やブランドの魅力を紹介
都会的な雰囲気を纏う注目のアウトドアブランド「and wander(アンドワンダー)」。 同ブランドはアウトドアシーンのみならず、その高いデザイン性によって仕事や日常生活を彩るファッションアイテムとし ...
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VOLK Tactical Gear(ヴォルク・タクティカル・ギア)
VOLK Tactical Gear(ヴォルク・タクティカル・ギア)は、大阪を拠点に活動する日本発の本格タクティカルブランドです。
本来はエアソフトやLE装備向けのギア製造からスタートした同ブランドですが、近年ではその高品質な縫製技術と“リアルミリタリー”に基づいたデザインが、ファッションアイテムとしても高く評価されています。
マルチカム柄やモールシステムを活かしたベストやバッグ類は、単なるファッションの枠を超えた実用性を持ち、タクティカルスタイルにリアリティを与えてくれます。
国産でありながら本格的な軍装に準拠した作りが、ミリタリーテック愛好家の間でも高く支持されている理由のひとつです。
まとめ:実用性とスタイルを兼ねた“新・日常着”としてのミリタリーテック

ミリタリーテックは、過酷な環境でも耐えうる機能性と、都会的な洗練を併せ持つ“実用性×ファッション性”の理想形です。
ミリタリーウェアの無骨で頼れる印象と、テックウェアの先進的な素材・ディテール。
その両者が交わることで生まれるミリタリーテックは、ファッションとしての完成度だけでなく、ライフスタイルに寄り添う実用性をも備えています。
都市生活・アウトドア・災害対策など、さまざまなシーンに対応できる汎用性は、これからの時代における“新しい日常着”としての選択肢となり得る存在です。
また、スタイルの面でも、“ただの機能服”では終わらせないクリエイティビティが込められています。
タクティカルベストやカーゴパンツ、ハードシェルジャケットといったアイテムにおいても、素材の選び方やシルエット、カラーリングによって、ミリタリーテックは自分らしい個性を表現できる自由度の高いスタイルでもあります。
ファッションに“使えるリアルさ”を求める現代人にとって、最適な装いと言えるでしょう。
無骨さとスマートさ、ヴィンテージ感とハイテク感。
そのすべてをバランスよく取り入れるミリタリーテックは、今後さらに進化し、多くの人々の“日常を支える装備”として定着していくはずです。
PROFILE
- メンズファッション専門WEBライター
- 古着屋「GARATOIRO」「BUYER'S GARMENT」を運営する元メンズアパレルデザイナー。
セレクトショップのECサイト運用担当後、WEBマーケティング業界に従事し、事業部長などのキャリアを経験。
起業後は30万人以上のファッションユーザーに利用されるWEBメディア「IDEALVINCI」専属ブロガーとしても活躍。「メンズ古着」「リユースファッション」などの情報も発信。
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