
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)は、ストリートウェアの枠を超えて都市の構造や社会階級をファッションで表現する革新的なブランドです。
創業者サミュエル・ロスの思想と建築的なアプローチ、そしてアート性の高いデザインによって、現代ファッションにおいて独自の存在感を放ち続けています。
この記事では、A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のブランドの起源と歴史、創業者の背景、そしてデザインの特徴とスタイルについてご紹介します。
目次
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の起源と歴史
ブランドの誕生と創設者
A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)はイギリス・ロンドン発のファッションブランドで、デザイナー兼アーティストのサミュエル・ロス(Samuel Ross)が2015年に設立しました。
設立当時の彼は24歳という若さで、ストリートカルチャーとアート、社会構造への深い関心を背景にブランドを立ち上げました。
サミュエル・ロス自身は、以前OFF-WHITEのデザイナーであるVirgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のアシスタントとして働いていた経験があり、その経験とバックグラウンドがA‑Cold‑Wall*の思想と表現の基盤となっています。
サミュエル・ロスはグラフィックデザインとイラストレーションを学び、その後コマーシャルデザインの経験を重ねるなかで、自分にとっての「モノづくり」の意味を問い直しました。
そしてストリートウェアの文脈にとどまらず、建築や都市の構造、社会における階級や環境といったテーマを服や素材というメディアを通して表現するというビジョンを持つに至りました。
ブランドコンセプトとデザイン思想
A‑Cold‑Wall*は、イギリス特有の階級構造や都市環境、ストリートカルチャーを起点とした「社会の構造を服で可視化する」ことをブランドコンセプトとしています。
ブランド名「A‑Cold‑Wall*」は、「冷たい壁(Cold Wall)」、すなわち階級の異なる人々が同じ都市空間で感じる“壁”や“隔たり”という象徴を意味します。
これは、労働者階級の子どもにとっての“コンクリートの壁”と、資本家階級の子どもにとっての“大理石の壁”というように、育った環境によってまったく異なる「壁」のイメージがあるという考えからきています。
デザインにおいては、コンクリート、金属、建材、産業資材など“荒々しい都市の素材感”をファッションに落とし込み、PVCやラバーライクなナイロンなど工業的な素材を用いたアウターやアクセサリー、無骨なテクスチャーやアシンメトリーなシルエットを特徴としています。
この手法により、ストリートウェアでありながらもアートや建築の文脈を服に持ち込む、いわば「社会的建築を身体にまとう」ようなスタイルを確立しました。
また、グラフィックやペインティング加工を施した一点もののアイテム、既成概念に縛られない表現としてのファッションという点もA‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)の大きな特徴です。
こうした表現は、単なるストリートウェアの枠を超え、アートや思想的なメッセージを含むものとなっています。
ブランドの成長と国際展開
設立からわずか数年で、A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)はストリートウェア界で急速に注目を集め、国際的な評価を確立します。
設立から2年あまりで、アート性とファッション性を兼ね備えたブランドとして“アートプロジェクト”から“ファッションハウス”へと成長しました。
ブランドはロンドンのみならず、ニューヨークや東京などグローバルな都市を視野に入れ、世界中のセレクトショップで取り扱われるようになりました。
こうした展開により、ストリートカルチャーや若者カルチャーを象徴するブランドとして、その存在感を急激に高めました。
またコラボレーションにも積極的で、Nike(ナイキ)をはじめ、 Oakley や他ハイブランドとの共同プロジェクトにより、ストリートウェアと機能性、デザイン性の融合を図ってきました。
こうした動きが、A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)のデザインを広く認知させる契機となりました。
組織の変化とこれからの展望
2023年、A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)はこれまで少数株主であった企業「Tomorrow Ltd」によって完全買収され、サミュエル・ロスはブランドから離れる決断をしました。
これにより、ブランドは創設者から独立し、新たな経営体制のもとで歩みを進めることになりました。
買収後もブランドは継続し、過去のコレクションや蓄積されたブランドアイデンティティを基盤に、今後はさらなる素材研究やクリエイティブな展開が期待されます。
創設者が離れるとはいえ、A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)がこれまで築いてきた“ストリートと建築、社会構造の融合”という独自性はブランドの核として残り続けると思います。
A‑Cold‑Wall*が残した影響
A‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)は、単なるストリートブランドではなく、都市の階級構造、素材、建築、社会背景といった複雑な要素を服というメディアで翻訳したブランドです。
その思想性と実験性は、ストリートウェアの枠を押し広げ、ファッションに対する新しい視座を提示しました。
また、その成功と急成長の過程は、若いデザイナーや独立ブランドにとってひとつのモデルとなりました。
出自やバックグラウンドにとらわれず、社会や環境をファッションで表現し、グローバルに展開する。
そんな可能性を示したのがA‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)だと考えます。
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の創業者
創業者の人物像
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の創業者はSamuel Ross(サミュエル・ロス)です。
Samuel Ross(サミュエル・ロス)は1991年5月26日、イギリスのロンドン・ブリクストンに生まれ、カリブ系移民(Windrush 世代)の家庭で育ちました。
彼は子どもの頃から絵を描くことに親しみ、15歳でグラフィックデザインやイラストレーションに関心を抱き、後にイギリス・レスターにある「De Montfort University」でこれらを学び、優秀な成績で卒業しました。
大学卒業後、Ross はまず商業的なグラフィックデザインやプロダクトデザインの仕事に携わりました。
その後、当時すでに注目されていたOFF-WHITEの創設者Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のもとでアシスタントとして働く機会を得て、ファッション業界へとキャリアを移行しました。
このようなバックグラウンドを持つことで、ロスはファッションのみならず、アート、グラフィック、プロダクトといった多様な領域を横断するデザイナーとして成長を遂げています。
デザイン思想とルーツ
Samuel Ross(サミュエル・ロス)のデザインの核には、彼自身の生い立ちや育った背景が深く反映されています。
ロスはロンドン郊外およびノースハンプトンで幼少期を過ごし、彼の母は絵画家かつ教師、父は芸術系教育を受けながらも商業デザインの仕事に就いていました。
こうした環境で育った彼は、幼少期から「ものを作る」「表現する」ことに親しんでいました。
子どもの頃から描いたドローイングやペインティングを通じて視覚表現に慣れ親しみ、青年期にはスニーカーやストリートウェアを巡る経験・環境を通して、ファッションと社会背景との関係性に気づき始めました。
その後、商業デザインやグラフィックの経験を経て、Ross は単なる装飾や流行ではなく、都市環境・社会構造・階級などを再構築する「社会的建築(social architecture)」としてファッションを捉えるようになります。
服を通じて階級やテクスチャー、空間の不均衡を表現するという思想が、後のA‑Cold‑Wall*(ア・コールドウォール)の根幹となっています。
キャリアの転機とA‑Cold‑Wall*の立ち上げ
ロスにとって転機となったのはVirgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のもとで働く経験でした。
Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のアシスタントとして、既存の枠にとらわれない発想や高いデザイン感覚、多様なプロジェクトに触れることで、ロスは自身のブランドを持つ決意を固めました。
そして2015年、25歳のときに自身のブランド「A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)」を設立しました。
彼はこのブランドを「身体のための社会的建築(social architecture for the body)」と定義し、ストリートウェアに建築的・社会学的な概念を持ち込む挑戦を始めました。
設立直後からロスはストリートカルチャーや労働者階級のルーツ、美術や建築の思想を反映した服づくりを展開し、既存のストリートウェアの文脈を壊しながら新しい表現を提示しました。
多面的な活動と現在
Samuel Ross(サミュエル・ロス)はA-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の運営だけにとどまらず、多面的なクリエイションを展開しています。
ファッションだけでなく、家具や彫刻、インダストリアルデザインを手がける「スタジオ SR_A」や、社会的意義を持つアート支援プログラム「Black British Artists Grants Programme」を自身の名義で立ち上げるなど、既成の枠を超えた表現活動を続けています。
ファッションという枠を超えたクリエイターとしての彼の存在感は、世界中のアート・デザイン界から注目されており、A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のデザイナーという肩書を超えて、“現代のデザイン思想を体現する人物”として認識されています。
Samuel Ross(サミュエル・ロス)の歩みを見ると、彼の作品は単なる服ではなく、彼自身の経験や社会構造に対する思考、そして多様な表現への挑戦を内包したものであると感じます。
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)というブランドを通じて提示される美学や価値観の根底にあるのは、まぎれもなくSamuel Ross(サミュエル・ロス)の人生と思想なのです。
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のデザインの特徴とスタイル
デザイン思想の核心
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のデザインは、ストリートウェアを基盤としながらも、都市環境や社会構造を視覚化する独自の思想に基づいています。
ブランド名に象徴される「冷たい壁」という概念には、労働者階級と富裕層が触れる“壁”の違いという社会的メッセージが込められており、服そのものが都市と社会を読み解くためのメディアとして機能します。
こうした思想がブランド全体のクリエーションを貫いています。
素材とカラーに表れる工業的な美しさ
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の服は、コンクリートや金属、工業資材を思わせる無機質なテクスチャーが特徴で、都市に存在する素材の冷たさや荒々しさをデザインに落とし込んでいます。
オーバーダイ加工によって生まれる独特のムラ感、多用されるグレーやブラックのトーンなどが、都市の硬質で静かな佇まいを服として表現しています。
これらの素材表現はブランドの象徴として強い存在感を放ちます。
シルエットとテーラリングの融合
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のスタイルでは、ストリートのラフさとテーラリングの構築性が巧みに融合されています。
初期の実験的なアプローチから進化し、近年はジャケットやアウターに仕立ての良さが際立つアイテムを多く展開しています。
これにより、ストリートウェアの文脈にありながら、洗練されたモダンな雰囲気を纏うスタイルが確立されています。
都市生活者に寄り添うデザインでありながら、ファッションとしての品格も備えています。
アート的視点による一点ものの表現
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)の大きな魅力のひとつが、グラフィックやペインティング、手作業による加工を用いたアート性の高いアイテムです。
量産では表現しにくい質感や雰囲気が宿り、服という枠を越えた作品性が際立ちます。
デザイナー自身の思想や経験が反映されているため、一点ごとに物語を感じさせる深みがあります。
このアート的アプローチがブランドの独創性をさらに強固なものにしています。
ハイブリッドな美学が生む新しいスタイル
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)のスタイルは、ワークウェア、ストリート、建築的テーラリング、アート表現、そして社会的テーマなど、多様な要素を一体化させた独自の美学で構築されています。
どのジャンルにも属しきらないハイブリッドな表現がブランドの魅力であり、現代ファッションに新しい価値観を提示しています。
服を着るという行為に社会的背景や思想を持ち込む点は、他ブランドとは一線を画す唯一性と言えます。
まとめ:A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール) ブランドリリース
A-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)は、サミュエル・ロスの社会的視点と芸術的感性によって生み出された、ストリートと建築、アートを融合させた革新的ブランドです。
イギリスの都市環境や階級構造を背景に、素材や色使い、シルエット、ディテールに至るまで一貫した思想性を持ち、従来のファッションの枠を越える存在となっています。
創業者自身のルーツやキャリアがデザインに深く反映されており、その表現は単なる衣服ではなく、“社会と身体をつなぐ建築”としての機能を果たしています。
今後もA-Cold-Wall*(ア・コールドウォール)は、ファッションを通じて社会に問いかける存在として、多くのクリエイターやファッションユーザーに刺激を与え続けることでしょう。
PROFILE
- メンズファッション専門WEBライター
- 古着屋「GARATOIRO」「BUYER'S GARMENT」を運営する元メンズアパレルデザイナー。
セレクトショップのECサイト運用担当後、WEBマーケティング業界に従事し、事業部長などのキャリアを経験。
起業後は30万人以上のファッションユーザーに利用されるWEBメディア「IDEALVINCI」専属ブロガーとしても活躍。「メンズ古着」「リユースファッション」などの情報も発信。
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