
かつては作業着として誕生し、今ではファッションアイテムとして多くの人に愛されている「オーバーオール」。
その無骨で実用的なデザインは、時代とともに進化を遂げ、ストリートやモード、アメカジなど多彩なスタイルに取り入れられる存在となりました。
さらに、SNSや古着文化の広がりにより、ユニセックスで楽しめるアイテムとしても再評価されています。
この記事では、オーバーオールの起源や歴史、有名ブランド、日本で人気の国産ブランド、そして現代ファッションにおける位置付けまで、幅広くご紹介します。
目次
オーバーオールとは?その基本スタイルと特徴

オーバーオールとは?基本を押さえておきたいその魅力
オーバーオールとは、肩ひも付きのパンツに前当て布(ビブ)が付いた一体型のボトムスのことで、本来は作業着として誕生したアイテムです。
ジーンズに似た厚手のデニムやコットン素材で作られていることが多く、ポケットや補強リベットなどワークウェア由来の機能的なディテールが特徴です。
現在では、ワークの雰囲気を残しつつも、カジュアルからストリート、モードスタイルまで幅広く取り入れられており、ファッションアイテムとしての地位を確立しています。
サロペット・オールインワンとの違い
オーバーオールと混同されがちなアイテムに「サロペット」や「オールインワン」がありますが、それぞれに明確な違いがあります。
サロペットはフランス語由来の言葉で、肩ひも付きのボトムス全般を指します。
デザインや素材に制限が少なく、よりファッション性を重視したアイテムも多く見られます。
一方、オールインワンは上下がつながったつなぎ(ジャンプスーツ)を意味しており、トップス部分が袖付きでパンツと一体化しているものが該当します。
つまり、オーバーオールはあくまで「パンツをベースに、肩ひもと前当てが付いた作業着スタイル」である点が本質的な違いとなります。
メンズ・レディース問わず人気を集める理由
オーバーオールが男女問わず支持を集める理由は、そのユニセックスなシルエットと、着こなし次第でさまざまな表情を楽しめる点にあります。
ゆったりとしたシルエットは体型を問わず着用しやすく、Tシャツやスウェットとのレイヤードで季節を問わず楽しめるのも魅力です。
また、カジュアルスタイルにラフな抜け感を与えたり、ワークテイストをアクセントとして加えたりと、幅広いスタイリングに対応できる柔軟性もあります。
最近では女性向けにタイトなデザインやストラップのアレンジが加えられたモデルも登場しており、古着・新作を問わず年齢や性別を超えて人気を集めています。
オーバーオールの起源と歴史

ワークウェアとして始まったオーバーオールの歴史
オーバーオールの起源は19世紀後半のアメリカにさかのぼります。
当時、工業化が進み、鉄道や鉱山など過酷な労働環境で働く労働者たちにとって、耐久性に優れた作業着が必要とされていました。
そのニーズに応えるかたちで誕生したのが、肩ひも付きのパンツ=オーバーオールです。
厚手のデニム生地やダックキャンバスを用い、膝やヒップ部分には補強が施され、収納力のあるポケットを多数備えていたことから、実用性の高いワークウェアとして瞬く間に普及していきました。
鉱山労働者や鉄道作業員の必需品としての役割
オーバーオールは特に鉱夫や鉄道作業員の間で重宝されました。
これは、激しい動きや土埃の多い現場でも破れにくく、また衣類を重ね着できる構造が寒暖差の激しい環境に適していたためです。
リーバイスやLEE、ROUND HOUSEといったブランドが初期のオーバーオール製造に関与しており、これらのブランドは当時から労働者に高い信頼を得ていました。
肩ひもによってベルトを必要としない構造は、作業中の快適性にも大きく貢献していたといえます。
ミリタリーや農業用途としての広がり
20世紀に入ると、オーバーオールは農作業用のユニフォームとしても活用されるようになります。
特にアメリカ南部や中西部では、農夫たちが毎日のように着用する定番となり、「農業の象徴」とも言える存在となりました。
さらに第二次世界大戦中には、アメリカ軍においても整備兵など一部の兵士向けにオーバーオール型のユニフォームが採用され、軍用アイテムとしても一定の役割を果たします。
1960〜70年代、ヒッピーや若者カルチャーにおける再評価
1960年代から70年代にかけてのカウンターカルチャーの時代、オーバーオールは再び注目を集めます。
反体制的なヒッピーたちは、工業社会への反発と自然回帰の象徴として、労働者の服であるオーバーオールを積極的にファッションとして取り入れました。
また、ジェンダーにとらわれないシルエットやレイヤードの自由度の高さが、当時の若者たちの価値観とマッチしていたことも、再評価の一因と考えられます。
ヴィンテージデニムの流行とも相まって、オーバーオールは「自由」の象徴としての意味合いを持ち始めました。
現代ファッションにおけるオーバーオールの位置付け
現代においてオーバーオールは、もはや単なるワークウェアではなく、ファッションアイテムとしての地位を確立しています。
90年代にはグランジファッションやHIPHOPカルチャーの一部としてストリートで再び脚光を浴び、2000年代以降もサステナブルなライフスタイルや古着文化の高まりと共に、再び注目を集めています。
現在ではカジュアルブランドからモード系、アウトドアブランドまで幅広いジャンルで展開され、性別や年齢、季節を問わず楽しめるユニセックスなアイテムとして定着しました。
歴史とともに進化し続けるオーバーオールは、今なお多くの人に愛され続けているのです。
オーバーオールのデザイン的な魅力

ワークウェア由来のタフな素材と実用性
オーバーオールの最大の魅力のひとつは、そのルーツであるワークウェアから受け継いだ耐久性の高さです。
厚手のデニムやダックキャンバスなど、ハードな環境にも耐えうるタフな素材が使用されており、長く愛用できる点は現代でも高く評価されています。
また、複数のポケットやトリプルステッチといったディテールは、実用性を追求したデザインでありながら、スタイルのアクセントとしても機能します。
ハンマーループやツールポケットなど、もともと作業効率のために生まれた要素が、今ではファッションとしての個性を際立たせる要因となっています。
シルエットとレイヤードの自由度
オーバーオールはその構造上、インナーにさまざまなトップスを合わせることができるため、レイヤードスタイルの幅広さが魅力です。
Tシャツやシャツ、スウェット、ニットなど、アイテムの組み合わせ次第でカジュアルにもストリートにもモードにも対応できる懐の深さがあります。
また、肩ひもでフィット感を調整できるため、ゆったりとしたリラックスシルエットから、ややタイトにまとめた着こなしまで自在にアレンジ可能です。
全体の印象を柔らかく、抜け感のあるスタイルに仕上げられるため、ファッションにおいて“ハズし”の要素としても活用されています。
季節問わず着回し可能な万能アイテム
オーバーオールは春夏秋冬を通して活躍する、稀有なファッションアイテムです。
春夏は半袖Tシャツやタンクトップと合わせてシンプルに、秋冬はスウェットやパーカー、タートルネックなどと合わせて温かみのある着こなしに。
寒い季節には上からコートやジャケットを羽織ってもスタイルが崩れず、重ね着のしやすさも高評価のポイントです。
さらに、素材やカラーの選び方によって季節感を演出できるのも魅力です。
ライトオンスのデニムやリネン混素材は春夏に、ヘビーオンスのコットンやコーデュロイ素材は秋冬に最適です。
年間を通じてコーディネートの幅を広げてくれる、まさに万能なアイテムといえるでしょう。
人気のオーバーオール王道ブランド

Levi’s(リーバイス)
1853年創業のLevi’s(リーバイス)は、世界で最も有名なデニムブランドのひとつであり、オーバーオールの歴史にも深く関わっています。
19世紀末にはすでにワーカー向けのビブオーバーオールを展開しており、その耐久性と実用性は鉱夫や鉄道作業員から高く支持されました。
近年では、1930〜70年代に生産されたヴィンテージオーバーオールが古着市場で人気を集めており、当時の赤タブやディテールにこだわるコレクターも多く存在します。
リーバイス製のオーバーオールは“元祖ワークウェア”としてのアイデンティティを体現する存在です。
Carhartt(カーハート)
1889年にアメリカ・デトロイトで創業したCarhartt(カーハート)は、タフな作業着として知られる老舗ワークブランド。
特に「ダック地」と呼ばれる高密度コットンを使用したオーバーオールは、ヘビーデューティーな印象と耐久性の高さで、多くの労働者に長年愛されています。
現在ではワークスタイルのトレンド化により、Carharttのオーバーオールはファッションアイテムとしても注目され、Carhartt WIP(ワーク イン プログレス)ラインでは都会的なシルエットやカラーリングも展開。
ストリートやアウトドア好きの若者からも絶大な支持を受けています。
Dickies(ディッキーズ)
1922年創業のDickies(ディッキーズ)は、ワークウェアとしてだけでなく、スケーターやストリートファッションの定番としても定着したブランドです。
軽量かつ丈夫なポリエステル混のツイル素材や、ゆったりとしたシルエットが特徴のオーバーオールは、日常着としても扱いやすく、多くの人々に親しまれています。
90年代のHIPHOPカルチャーやスケートシーンにおいて、Dickiesのパンツやオーバーオールはユニフォームのように愛用されてきました。
気負わずラフに着こなせるスタイルで、幅広い年齢層に支持されています。
Pointer Brand(ポインターブランド)
1913年にテネシー州で創業したPointer Brand(ポインターブランド)は、アメリカ製にこだわったワークウェアを提供する家族経営のブランドです。
特にオーバーオールは、クラシックなビブの形状やストライプ柄、デニムの風合いが魅力で、古き良きアメリカンスタイルを感じさせてくれます。
大量生産を行わず、現在でも多くの製品がアメリカ国内で縫製されているため、“本物のワークウェア”を求める玄人やファンの間で高い評価を得ています。
BEN DAVIS(ベンデイビス)
1935年に創業したBEN DAVIS(ベンデイビス)は、サンフランシスコ発のワークウェアブランド。
創業者の祖父は、Levi’sの創業者リーバイ・ストラウスと共に働いていたとされることからも、デニムとの関係は深いと言えます。
BEN DAVISのオーバーオールは、厚手の生地と無骨なデザインが特徴で、アメリカ西海岸のストリートカルチャーやHIPHOPシーンとの結びつきも強く、タフで個性的なスタイルを演出できます。
近年では日本国内でもストリートファッション好きから支持されています。
orSlow(オアスロウ)
2005年に日本でスタートしたorSlow(オアスロウ)は、ヴィンテージウェアを現代的に再構築するブランドとして注目を集めています。
特にデニムオーバーオールは、古き良きアメリカンワークウェアをベースにしながら、日本ならではの丁寧な縫製と風合い豊かな素材感で仕上げられており、国内外で高く評価されています。
“slow=丁寧にものづくりをする姿勢”をブランド名に込めており、長く愛用できる上質なワークスタイルを求める人にぴったりのブランドです。
Engineered Garments(エンジニアドガーメンツ)
ニューヨーク発のEngineered Garments(エンジニアドガーメンツ)は、アメリカの伝統的なワークウェアをモダンに再解釈するブランドとして世界的に人気を博しています。
オーバーオールにおいても、左右非対称のポケット配置や、異素材ミックス、ミリタリー要素の組み込みなど、既存の枠にとらわれない独自のデザインが特徴です。
ファッション性が高く、アメカジやストリートといった枠を超えた“大人のワークスタイル”として、感度の高い層に支持されており、個性を出したいユーザーに特におすすめのブランドです。
日本で人気のオーバーオールブランド

日本ブランドによるオーバーオールの進化と台頭
かつてアメリカ発祥のワークウェアとして定着していたオーバーオールは、21世紀に入ってから日本のファッションブランドによって新たな進化を遂げています。
特にKURO(クロ)、Kapital(キャピタル)、NEEDLES(ニードルズ)といった国内ブランドは、それぞれの個性を活かしたオーバーオールを展開し、国内外のファッションシーンから注目を集めています。
こうした国産ブランドは、単にアメリカンヴィンテージの模倣にとどまらず、日本ならではの縫製技術や素材選び、そして現代的なシルエット感覚を巧みに取り入れることで、オーバーオールを新たなファッションアイコンへと押し上げています。
ヴィンテージ感と現代的シルエットの融合
日本ブランドのオーバーオールは、その多くが「懐かしさ」と「新しさ」の絶妙なバランスで成り立っています。
たとえば、KUROは重厚なセルビッジデニムを使用しつつ、シャープなシルエットで都会的な雰囲気を演出。
Kapitalはリメイク調の風合いやパッチワーク、ボロ加工などを施すことで、唯一無二の個性を放っています。
一方でNEEDLESは、モード寄りの視点から再構築されたシルエットを提案。
ワイドテーパードやドレープ感を活かしたデザインによって、従来の“作業着”としてのイメージを軽やかに超越しています。
このように、各ブランドはヴィンテージの雰囲気を尊重しながらも、ファッションとして洗練されたプロダクトを作り出しているのが特徴です。
MADE IN JAPANが生む品質とクラフト感
日本製のオーバーオールは、素材や縫製、ディテールに対するこだわりの高さでも評価されています。
岡山県や広島県など、国内でも屈指のデニム産地で生産されるアイテムは、糸の撚り方から縫い糸、金具の取り付けに至るまで徹底的にこだわられており、長く愛用できる耐久性と風合いを備えています。
また、日本のクラフトマンシップはディテールの丁寧さに表れています。
ボタンの配置、内側の補強、裏地の処理など、着用者には見えにくい部分にまで美しさと機能性が追求されているのが特徴です。
こうした繊細な技術が、世界的にも「MADE IN JAPAN」の価値を高め、日本ブランドのオーバーオールが信頼される理由となっています。
オーバーオールの現代ファッションにおける位置付け

ジャンルを超えて愛される、横断的ファッションアイテム
オーバーオールは現在、ストリート、アメカジ、モードといったジャンルを横断して活用されるユニークなアイテムとして確立されています。
かつては「ワークウェア」のイメージが強かったオーバーオールも、シルエットの多様化や素材の進化によって、さまざまなファッションスタイルに馴染む存在へと変化しました。
ストリートシーンでは、オーバーサイズのシルエットや大胆なプリントとの組み合わせでインパクトのある着こなしが主流。
アメカジではヴィンテージアイテムやチェックシャツと合わせたラフなコーディネートが根強い人気を誇ります。
さらに、モード系ブランドでは素材感や構築的なシルエットを重視し、洗練されたアイテムとして再解釈されています。
このように、オーバーオールはもはや一部のジャンルにとどまらない、現代的なファッションアイテムとして認知されています。
レディース&ユニセックス需要の高まり
近年、オーバーオールの人気はメンズファッションにとどまらず、レディースファッションでも急速に拡大しています。
特にリラックス感のあるシルエットや、体型をカバーできるデザインが女性に好まれ、カジュアルコーデの主役アイテムとして定着しています。
また、ジェンダーレスなファッションが注目される中で、オーバーオールはまさにユニセックス需要に応えるアイテムとなっています。
カラー展開や素材、ディテールの差別化により、性別を問わず楽しめるバリエーションが増加。
カップルでシェアするコーディネートや、キッズ向けを含めた家族でのリンクコーデなども人気を集めています。
ファッションの自由度が高まる今、オーバーオールは「誰が着てもおしゃれになれる」万能ウェアとして、幅広い層から支持されています。
SNSと古着文化による再評価
オーバーオールの人気再燃には、InstagramやTikTokなどSNSの影響も見逃せません。
海外インフルエンサーや日本の古着系YouTuberなどがオーバーオールを取り入れたコーディネートを発信し、若年層を中心にトレンドが広がっています。
特に注目されているのが、古着やヴィンテージのオーバーオール。
色落ちやダメージ、独特の風合いを活かしたコーディネートは、「一点モノ」の価値観を持つZ世代やY世代の感性とマッチしています。
さらに、サステナブルファッションの視点からも、リユース可能で長持ちするオーバーオールは評価されており、再び注目が集まる背景となっています。
このように、SNSと古着文化の融合は、オーバーオールを「懐かしい作業着」から「現代的で個性的なファッションアイテム」へと再定義し、その魅力を世界中へと広げ続けています。
まとめ:ワークウェアとしてのルーツとファッション性が融合したオーバーオール

オーバーオールは、19世紀のアメリカで生まれたワークウェアとしてのルーツを持ちながら、現代ではジャンルを超えて活躍するファッションアイテムへと進化してきました。
Levi’sやCarharttなどの名門ブランドから、orSlowやNEEDLESといった日本発のブランドまで、時代と文化に応じて多様なスタイルが展開されています。
その魅力は、タフな素材感と機能性、シルエットの自由度、そして季節を問わず着回せる汎用性の高さにあります。
さらに、SNSや古着ブームの影響により、若者を中心に再び注目されている点も見逃せません。
オーバーオールは、単なる流行ではなく、歴史と文化、そして実用性とファッション性が融合した永続的な魅力を持つアイテムです。
自分らしいスタイルを表現する一着として、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
PROFILE
- メンズファッション専門WEBライター
- 古着屋「GARATOIRO」「BUYER'S GARMENT」を運営する元メンズアパレルデザイナー。
セレクトショップのECサイト運用担当後、WEBマーケティング業界に従事し、事業部長などのキャリアを経験。
起業後は30万人以上のファッションユーザーに利用されるWEBメディア「IDEALVINCI」専属ブロガーとしても活躍。「メンズ古着」「リユースファッション」などの情報も発信。
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